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円/ドル・レートは、八〇年代の後半に落ち着きをみせ、九台まで戻した九二年には再び一ドル一二O円九三年八月には一気に一OO円台まで上昇した。
実質為替レートは、日本の製造業の産出物価指数と、円/ドル・レートで媒介した米国製造業の生産者価格指数の比率をとったものである。
一方実質実効為替レートの方は、J・P-モルガンで計算されている先進一九カ国の製造業の生産物価格指数で実質化したものである。
これをみると最近までのデータをとっても日本の価格競争力は相当変動してきたことがみてとれる。
八〇年代前半のミス・アライメントによる部分も大きいが、九〇年代に入っても為替レートは、必ずしも価格競争力を一定にするように動いているようにはみえない。
一九九三年二月から八月にかけての急激な円高は、ちょうど九三年四半期に生産が増加し、長い不況からの脱出の糸口をつかみかけていた時期だけに、その円高率よりもタイミングの悪さが問題となった。
米国経済のインフレの進行が、ドル離れをおこしたことに伴う円高である。
このときの円高で円/ドル・レートは初めて一ドル二OO円を突破した。
八五年九月のプラザ合意に伴うそれまでのドル高修正による円高である。
二つの時期の円高は、実質為替レートでみた円の上昇率が実質実効為替レートでみた上昇率を上回っていた。
例えば最初の円高のピークであった七八年四半期の円高率(前年同期比、以下同じ)は、実質為替レートでみると二六・五%であるのに対し、実質実効為替レートの場合は一二・三%であった。
またプラザ合意後の円高の場合も、プラザ合意一年後(八六年四半期)の円高率は、実質為替レートで四七・五%、実質実効為替レートで二七・七%であった。
このことは、円はドルに対しては高くなっているが、他通貨もドルに対して増価しているため、円に対してはそれほど減価していないということを意味する。
この時期は「円高」というよりも「ドル安」の側面が大きく作用している。
一方九三年の円高は、そのピークである九三年四半期の円高率でみると、実質為替レートが一四・一%に対し、実質実効為替レートは二三・四%と、実質実効為替レートでみた円高率の方が、実質為替レートを上回っている。
この時期は、これまでの円高局面とは逆で、円はドルだけでなく他通貨に対しても大きく増価したことを意味している。
こうした背景には、欧州の景気低迷や通貨危機により、米国資産を保有する投資家だけでなく欧州資産を保有する投資家も円資産に乗り換え、その結果円の独歩高が生じたとみられる。
したがって九三年の場合、日本の価格競争力は対米だけでなく、世界的に大きく低下したという点が大きな特徴である。
円高と景気全般との関係も注目すべき点の一つである。
いずれの円高期も不況期と重なっていた最初の二回の円高は、景気のピークから一年以内に生じていたのに対し、一九九三年の場合は前回の景気のピークから二年を経た後におきたという点で相違がみられる。
この点は、企業収益の増減に顕著に表れている。
大蔵省『法人企業統計季報』の全規模・全産業の経常利益ベースでみた企業収益の変化をみると、最初の円高期はすでに増益であり、八六年の場合も減少率(対前年比)は、マイナス二・O%である。
これに対し、九三年前半の企業収益(対前期比)は、マイナス一〇・三%と大幅なものとなっている。
しかも、九三年の場合はそれまでの企業収益が三期連続減益となった後に、円高になったという点も特徴的である。
要約していえば、九三年の場合は、長期にわたる内需の減少に追い討ちをかけるように対外競争力の低下が生じたのである。
きて企業収益が長期にわたって減益を続ける状態での為替レートは、均衡為替レートが成立する条件を満たしているとは言い難いのではないだろうか。
なぜならば均衡状態というのは、企業が正常な利潤をあげている状況を想定しているからである。
企業が、固定的な生産要素である雇用や資本設備の稼働を維持するために、採算割れの価格で輸出をおこなっているという考え方である。
企業としては、いったん設備を休止したり技能労働者を解雇すれば、再び設備を稼働させたり、人材を募集したりするコストは膨大であり、比べれば短期的な損失を耐えた方がよいという判断をしているものと思われる。
実際、九三年後半からの鉄鋼、セメントなど素材型産業の輸出は資本設備の稼働維持であるといわれている。
こうした点を考えると、長引く不況により多少採算レートを高めに設定している可能性はあるものの、九三年から九四年にかけての一ドル一OO円前後の為替レートは、競争力を国際的に均等化させる水準よりは、日本側に不利にはたらいているといえよう。
均衡為替レートが国際的な貿易財市場を均衡させるように動く条件の一つは、同質的な財が取引されていることである。
このことは、自国と外国の財の価格比でみた実質実効為替レートが、安定的な推移をすることを意味する。
八〇年代から九〇年代にかけてこの実質実効為替レートの推移をみると、必ず安定的とはいい難い動きをしていた。
特に日本の輸出の大半を占める機械産業では、変動が相対的に大きく、製品の特質性が重要な役割を果たしていることを示唆している日本の製造業の技術進歩率は、八〇年代をとおして、米国、西ドイツを上回っており、これが賃金などのコスト競争力の不利化を補っていた重要な要因であると考えられる。
八〇年代後半からは、機械産業で技術進歩率格差が縮小し、素材型産業では外国の技術進歩率を下回るケ|スがあらわれた。
九三年前半の円高は、対米だけでなく世界的に日本の価格競争力を低下させる効果をもった。
長引く不況下での円高は、長期にわたって企業収益が減少していたこともあり、採算レートを上回るものとなった。
企業が正常な利潤をあげうる条件にないという意味で、一ドル一OO円まで上昇した九三年の円高は均衡為替レートに沿った動きとはいえず、日本の価格競争力は不利化したと考えられる。
製造業の国際的な価格競争力の動きが、設備投資にどのような影響を与えたかを検討する。
わが国の設備投資が景気変動の主役であったことはよく知られている。
今回の長引く不況も、その主因は設備投資の長期にわたる低迷にあるといえる。
過去の景気循環局面において、設備投資の変動は、常にGNPの変動の五O%以上を占めていた。
特に最近の不況局面ではGNP変動の八六%を設備投資の変動が支配している。
第一次石油危機に伴う原油価格の高騰は、設備投資を大きく落ち込ませた。
鉄鋼、化学、紙・パルプ、繊維などの素材型産業では、原料の高騰により既存の設備の収益性が著しく低下し、既存技術の延長線上での投資では採算を見込めなくなった。
また一般機械、電気機械、輸送機械などの加工組立型産業では、七三、七四年のインフレーションを収束させるための厳しい金融引締めに伴う需要の減退により、新規投資の意欲を失った。
このため312にみられるように、七五年における製造業の設備投資は全般的に大幅なマイナスであった。
このうち、加工組立型産業は、輸出に活路を求めることができたため、七六年に入って設備投資はプラスに転じた。
一方エネルギー価格の高騰の影響が長引く素材型産業の設備投資は、前年比でみてマイナスが続いた。
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